青菜にコンスタンティノープル

「山田くん、バイトしたい」
「おお。ようやくニート脱出ですか」
「間違えた。バンドしたい」
「『バ』しか合ってないじゃないですか」
「この前さ、友達がライブやっててかっこよかったの。ジャズィーな感じで」
「ちょっと言い方に角がありますね。ジャジー
「『A列車で行こう』とかやっててさ。列車なんて走らない田舎に住んでるくせに」
「それはお互い様です」
「とにかく、私もバンドやろうと思ってさ」
「早速、メンバー集まったんですか」
「私と山田くん」
「少なすぎますよ」
「山田くんはサックスとトランペットとピアノとギターとハーモニカができるからいいじゃん」
「いっぺんに演奏できるほど器用ではありません」
「前に、プロのフルート演奏家が息継ぎなしで吹き続けてたのを見たことあるよ。あの技術を使えば」
「できません」
「じゃあ、好きな楽器担当していいよ」
「まあ、僕は何でもできるとして、鈴木さんは何を担当するんですか?」
「私はあおり担当です」
「え?」
「ほら、客をあおってテンション上げさせたり、失神させたり」
「楽器をやってください」
「じゃあ、ホーミー担当でいいよ。ねえ、そんなことよりさー、バンド名考えようよー」
「僕、乗り気じゃないのに、話が勝手にどんどん進んでいく……」
「お互いの好きな言葉をバンド名に使おう。で、青菜と何にしようか」
「え、どうして青菜が出てくるんですか」
「山田くん、落語が好きだから『青菜』好きでしょ?」
「ああ、旦那が「青菜をもってこい」と言ったら、奥さんが「鞍馬から牛若丸が出でましてその名も九郎判官」と言い、「義経」と返事した旦那がかっこよかったから植木屋もやってみた、というあの話ですか」
「簡単かつ分かりにくい説明ありがとう」
「僕は確かに落語が好きですけど、鈴木さんは何が好きなんですか?」
「うーん。カカポかな」
「鳥が好きなんですね」
「いや、音がいいんだよね。『かかと』でもいいよ。あー、でも、『はと』も捨てがたいなあ」
「『青菜とかかと』というバンド名は、とてつもなくダサいですよ」
コンスタンティノープルもお気に入りだよ」
東ローマ帝国の首都ですね」
「コンスタントにノーブルでもいいけど、英語分かんない人にはこの面白さが通じないよね」
「人の怒りをかう発言はやめてください」
「『青菜に塩』でいいか」
「ネガティブなイメージじゃないですか」
「じゃあ『青菜にコンスタンティノープル』でいいよ」
「それもイマイチですが」
「『青菜』とかけて『コンスタンティノープル』と解く」
「お、その心は?」
「菜(名)がいいな」
「してやったりの表情やめてください」
「山田くーん、座布団のはしっこをねずみにかじられてしまいましたあ」
「そんな報告もいりません」