ra_muffler

 1週間分の洗濯物を洗濯機の中に放り込むと、その中にとろーりと液体洗剤を入れた。さらにダウニーを入れるのも忘れずに。洗濯機の電源を入れ、開始スイッチを押す。水がゴーっと流れ込み、グイングインとドラムが回り出し、私はそれをニヤニヤと見つめる。服やタオルが無防備に水に回される様子が好きなのである。
 唐突にピーピーと音がして、ハッと我に返る。そろそろふたを閉めてくださいという合図である。私は着ていたタンクトップとパンツを脱いで、その中に放り込むと、ゆっくりとふたを閉じた。
 代わりに何か着るものはないかと、近くにあったものを身に着ける。


 部屋に戻ると、田中がゲームをしていた。私もその横に腰を下ろす。
「な、なんすか、先輩、その格好は……!」
「裸マフラーよ」
「え、まあ、見れば分かりますけど、なんで裸なんですか? なんでマフラーなんですか?」
「全裸はいつものことよ。家ではこうだし。田中が来てるから、一応何か着た方がいいかと思って、とりあえず、近くにあったマフラーを身に着けてみた」
「そ、そうなんですか」
「それより、お茶、頂戴」
 田中からペットボトルを受け取ると、こくこくこくと勢いよく飲み干した。ジャスミンの香りがした。田中は意外と乙女な飲み物が好きなのだな。
「なに見てるの」
「や、見てはいけないと思いつつも、つい……」
「この前さ、エリザベスと飲みに行った時、ローズミントカクテルを頼んだら、それを飲んだ彼女が『おばさんの味がする……!』って言ってたんだけど、ジャスミンティー飲ませたら、なんか言うかな?『トイレの味がする……!』とか言うかな?」
「さあ、どうでしょう」
「さっきから上の空だけど、どうした田中?」
「いやあ、裸マフラーは反則っす。エロいっす」
「でも、エロいことしたら、即パンチだからね」
「えー」
「私、人に触られるの嫌いなの。そういうことされるとストレスフルなの」
「えー」
「ほら、小さい時に風邪引いたりしたら、一般的に母親というものは背中をさすさすしたりするみたいだけど、私の家庭はそんなんじゃなかったからね。私が触られるの嫌だから、私が喘息で苦しんでると、母親は手かざしで治してくれたよ」
「なんですかそれ、気功とかですか?」
「んー。いや、ある種の宗教だね」
「え」
「まあ、田中も裸マフラーやりたかったらやれば? 首を温めると体全体が温まるから、裸でも寒くないよ」
「お断りします」
 そう言って、田中は私のポニーテールがマフラーにぎこちなく絡みついていたのを直すべく、マフラーをきちんと巻きなおしてくれた。
 その時、田中の冷たい指先が私の頬に少し触れたのだけど、私はそのことには特に言及しなかった。意外と心地良かったからだ。だけど、それは私だけの秘密にしておく。