落ちてくる偶然に見られる癒しきれない変容

 気が付くと、バスタブに秋岡と2人。
「何! 何でここに居るの?」
 彼は呆れた目で私を見つめる。
「お前が一緒に入ろうって言ったんじゃないか」
「うわお。そんなの知らないよ!」
 私は、ざばんと勢いよく湯から立ち上がる。秋岡は上目遣いでじっと見ている。うわ。私ってば裸なのだ。はずい。そのままざぶんと、また湯に浸かる。頭がじんじんする。貧血か? 何やってんだろうなあ。
 そのまま鼻の所までぶくぶくと湯に沈む。あー、もう何が何だか。私は記憶喪失者か?
「お前って面白いなあ。こんなにテンパってる人見たことないぞ」
 にやにやしながら、彼は言う。秋岡は華奢なようで、結構筋肉付いてるのね。男の人だから当たり前かあ。
 私はこの後、どうすればいいのか。伸びてしまう前に、決断せねば。
「おいで」
 彼がいきなり私の手を引いて、自分の太腿に私を乗せた。
「お前、軽いなあ。まあ、お湯の中だから当たり前か」
 私は自分の背中に彼の胸を感じ、それからお尻の辺りに彼のものを感じ、動悸が激しさを増した。
「大丈夫だよ、怯えなくても。何もしないから」
 彼はそう言い、頭を優しく撫でた。私は何も言わず、されるがままである。
「何か大人しくなったけど、のぼせて来た? もう上がろうか?」
 気を遣ってか、彼は先にバスタブから出た。そして、その後に私もようやく湯から出ることが出来た。



 私はふかふかのベッドに横たわる。そして、ずきずきする頭でもう一度考えてみた。確か、由佳たちと飲んでいた。その席に秋岡もいた。私は彼に何か話したのだろうか。
「男嫌いだって話したの覚えてない?」
 秋岡が水の入ったグラスを持って来て、私に渡す。
「全然覚えてない……」
「男嫌いなんてありえないって俺は言ったんだよ。俺が直してやるって」
「え?」
 どういうこと? 果て、その真意とは? 私は真剣に考え込む。
「セックスしようか?」
「……!」
 私は固まる。
「嘘だよ。安心して、何もしないから。由佳ともそういう約束だし」
 私は、少し秋岡のことが好きになり始めていた。否、もう完全に好きになってしまっていたのかもしれない。
 しかし、男嫌いが直っても、相手が由佳の彼氏ではどうにもならない。
 私は思わず秋岡に抱きついた。けれども、彼はきっと私を抱いてはくれないだろう。