2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

He intended his remark as irony

いつもの赤い橋を渡ろうとした時だった。三丈程先に黒い影が見えて、それから何となくこれからの展開も見えて、嗚呼またかと一気に気分が萎えた。向こうも私の足音に気付いたようで、今更引き返すわけにもいかない。 薄闇の中に彼の青白い顔がぼんやり見えた…

恋煩い

行為の後はどこか体調が優れない気がする。それでも、次に期待してしまうのは何故か。人との繋がりを保ちたいからか。それとも、人との繋がりを断ち切りたいが為か。 隣では、女が柔らかそうな肌を露わに横たわる。無表情ゆえに何を考えているかは分からない…

着信音

ベッドの中に潜り込んで、なかなか落ちていかない意識を持て余していると、携帯の着信音が鳴った。またいつものメールか。画面を開くと、予想通り、彼女だ。 『やり直してもらえないの?』 僕はうんざりして携帯を閉じる。しかし、続け様にまたメールが。 『…

崎村或いは匿名に関する何か

「次の短編はもう書けた?」 「いや、まだアウトラインさえ見えぬ」 「もうヒエログリフについてでいいじゃん。若しくは」 「そういえば、先日、サイトの文章を読まれた方が『セックスに関する文章が多いなあ』と仰ってましたよ」 「まあ、それは『セックス…

眠れない夜はリピート

「何故、自分はこんなことをしているのだろうか」 真ん丸いトマトを片手に、広い店内の妙な音のする機械の前で、ぽつりと崎丘は思った。 「あの」 目の前の明るい声にはっとする。 「そのトマトも買うんですよね?」 「あ、はい……」 スーパーの店員は、誰が…