2008-01-01から1年間の記事一覧

cry for the moon

「鏡をじっと見詰めると、何か違和感を感じるんだ」 彼があまりにも真剣に訴えてくるので、私は思わず笑ってしまいそうになった。 「違和感? どんな?」 「鏡に映っているのは本当の俺ではなく、見知らぬ誰かに見えてしまうんだよ」 「ほう」 「寝る前によ…

リライト

男は自分の身の上話を終えると、ふうっと溜息をついた。そして、目には悲劇的な苦痛を湛えたまま、こちらの様子を窺った。 「この話を書いてもらっても構いません。先生になら……」 「そうですか」 私はその手の話など、全く書くつもりはなかったし、そのよう…

常に影を搏つ

彼から電話があって呼び出されるものだから、急いでアパートへ行ってみると、「彼女と別れそうだ」という相談で、つい最近まで惚気話を聞かされてた私は驚いたふりをしたが、否、実を言うと、私は彼のことを友達というより良い雰囲気を持っているなと認識し…

草上の昼食

女は救いを求める男たちの会話に耳を傾ける。 静けさの中、女は考えた。 言葉で誰かを救おうなど、到底無理なことで、例え、一瞬でも救えたなどと錯覚しようものならば、貶められたのは自分のほうである。 女に出来ることは、己の体を使い、その男の懊悩とし…

距離指数

ショパンの『ワルツ#9変イ長調』を弾き終わると、もう練習を始めてから2時間が経っていた。部活の時間も合わせると、既に5時間は音楽に関わっていたことになる。そろそろ、宿題に取り掛からないといけないと思いつつ、その前に少し休憩をしようと、私は『…

sudden-death

図書館の2階からふと外を見ると、横断歩道をたくさんの人が慌しく渡っていて、しかもその光景が何となくどんよりとしたものだったので、ああ、雨が降ってきたんだな、と私は思った。 梅雨明けが近いのか、今日は珍しく朝から晴れていて、溜まっていた洗濯物…

日溜り

「3×3のマス目に1から9の整数を入れて、縦、横、斜め、3個の整数の合計がいずれも等しくなるように、マス目に入る数字を答えよ」 「ふむ。それは、数学的に解けばいいのか、それともパズル的に解けばいいのか」 「どちらでもいいよ。兄さんが答えを出せ…

He intended his remark as irony

いつもの赤い橋を渡ろうとした時だった。三丈程先に黒い影が見えて、それから何となくこれからの展開も見えて、嗚呼またかと一気に気分が萎えた。向こうも私の足音に気付いたようで、今更引き返すわけにもいかない。 薄闇の中に彼の青白い顔がぼんやり見えた…

恋煩い

行為の後はどこか体調が優れない気がする。それでも、次に期待してしまうのは何故か。人との繋がりを保ちたいからか。それとも、人との繋がりを断ち切りたいが為か。 隣では、女が柔らかそうな肌を露わに横たわる。無表情ゆえに何を考えているかは分からない…

着信音

ベッドの中に潜り込んで、なかなか落ちていかない意識を持て余していると、携帯の着信音が鳴った。またいつものメールか。画面を開くと、予想通り、彼女だ。 『やり直してもらえないの?』 僕はうんざりして携帯を閉じる。しかし、続け様にまたメールが。 『…

崎村或いは匿名に関する何か

「次の短編はもう書けた?」 「いや、まだアウトラインさえ見えぬ」 「もうヒエログリフについてでいいじゃん。若しくは」 「そういえば、先日、サイトの文章を読まれた方が『セックスに関する文章が多いなあ』と仰ってましたよ」 「まあ、それは『セックス…

眠れない夜はリピート

「何故、自分はこんなことをしているのだろうか」 真ん丸いトマトを片手に、広い店内の妙な音のする機械の前で、ぽつりと崎丘は思った。 「あの」 目の前の明るい声にはっとする。 「そのトマトも買うんですよね?」 「あ、はい……」 スーパーの店員は、誰が…

石に漱ぎ流れに枕す

「何、読んでいるんですか?」 「モホ面」 「え?」 「モホロビチッチ不連続面について。地震波速度の伝わり方をちょいと。中国で地震あったからね。日本もそろそろやばくね?」 「何だ。ホモについての本かと思った。何でも略さないで下さいよ」 「うざい」…

おしゃれデパート

The tongue ever turns to the aching tooth. I felt something bitter when I had his big thing in my mouth. Unconsciously, feeling nauseated, I endured on the blanket. What am I doing? I might have loved him, however this act was always the t…

抽象的モデルの底辺

世界がぐるぐるしていて、目を瞑りたくなった。否、最初から目は瞑っていた。 最初は好んでいた筈なのに、義務感が芽生えると、どうしようもなく陰鬱になる。 笑われないような文法と理屈さえ身に付けておけば、征服できると思っていたが、一体どんな要素を…

イマジナシオン

「オーストラリア」 「モルジブ」 「イタリア」 「遺跡も素敵」 「バチカン市国」 「ニュージーランド」 「いいね、キウイだ」 「カカポもいる」 「韓国」 「ペ・ヨンジュン……」 私たちはコタツの中にもぐり込み、お金もないのに、行きたい国について語り合…

スプートニク

とんとんとん。と、包丁が軽やかな音を立てる。 私は料理に集中し、彼はリビングで本を読んでいる。料理は良い。何も余計なことを考えなくて済む。 出来た料理を目の前にすると、彼は本を閉じ、箸を手にする。無言で食べ始める。私は何も食べずに、彼の食べ…

通り過ぎていく日常

初めて見た時には、何とも思わなかった。 2回目に見た時は、どうして一人でいるのかなと思った。 3回目に見た時は、とても綺麗な横顔だと思った。「隣、いいですか?」 「どうぞ」 彼女は微かににっこりと笑い、顔を傾ける。 そして、何もなかったかのよう…

ある筈の底が見えない

彼に寄りかかると、ふんわりと温かい匂いがした。 「長迫は優しいね」 「ん? 何が?」 「私が頭痛いって言っただけで、薬を買って持ってきてくれた」 「困っている人がいたら助けるのは当たり前でしょ」 「ふうん」 こうやって久し振りに長迫といるとドキド…

管理する人と管理される人

「おじいちゃん、夕ご飯の時間だよ」 ベッドに眠るおじいちゃんを覗き込むと、薄い瞼がぴくぴくと動き、うっすらと目が開いた。 「ん? 緋那子かい? お母さんは?」 「お母さんは仕事だから、今日も私が代わりに来たよ」 私は箸、スプーン、らくのみを準備…

Out of the frying pan into the fire

「先生、写真撮って下さい」 声のするほうを振り返れば、女子のグループの中に咲谷優実が不機嫌そうに立っていた。卒業証書を片手に。 俺は思わず体が固まる。咲谷が苦手なのである。出来れば最後まであまり関わりたくはなかった。 仕方なく、しぶしぶ言う。…

本題はいつも後回しで手遅れに

All is not gold that glitters. Red of camellias and yellow of rape blossoms were glittering with the air.Suddenly you held out. Actually, it made me surprised. I thought you hated me because you hardly talked with me.I wished I had touched…

Soak in liquid nitrogen or go soak your head

目の前に白い煙がもくもくと広がっている。「液体窒素。沸点−196 ℃。または77 K。絶対零度は0ケルビン。今日は特別に、いいもの見せてあげるよ」 彼は私の目の前にある花瓶から、花弁をひとつ千切ると、液体が入っているシャーレに落とした。 「ほら」 先生…

関連の無い連続性

一人ぽつんと机に向かい、座っていると、目の前に黒いハットを被ったスーツ姿の英国紳士がいた。彼はにっこりとしながら、何かを伝えてきた。ところが、私は全く英語を使いこなすことが出来ないため、彼の言っていることはさっぱり分からなかった。只、彼は…

私は正常、あなたは?

白い紙切れがローテーブルの真ん中に頼り無げに置かれている。それには「進級認定願」とあっさりした文字が。 俺の目の前には色白の体に黒いワンピースを着た強気な目線の少女。彼女と向かい合うようにしてソファに座る。距離にして、60cmか。しかし、初…

気が付けば裏返る関係性

But I... I wanna say something to the audience... You'd gone without my noticing it. You'd go without my noticing it. You would go with my noticing it. You would go with my nother thing. You would go with my mother thin.With the passage of…

消えなくてはならないものと消えてはなくならないもの

前略 ようやく暗い闇から復活しました。 人間はなかなか死なないものですね。 私が最近していることと言えば、空の青さを確認することくらいしかありません。本を読むのも、気力が無く、点滴が逆流してしまうので、避けています。こうやって、手紙を書くのに…

落ちてくる偶然に見られる癒しきれない変容

気が付くと、バスタブに秋岡と2人。 「何! 何でここに居るの?」 彼は呆れた目で私を見つめる。 「お前が一緒に入ろうって言ったんじゃないか」 「うわお。そんなの知らないよ!」 私は、ざばんと勢いよく湯から立ち上がる。秋岡は上目遣いでじっと見てい…

Will you shut up?

We discussed the lies beneath a cliff.You must consider other people feelings, especially me. I ought to have betray you.However my massage was on the tip of my tongue, you were lapping me up.I won't care what you say. You won't care what I…