2009-01-01から1年間の記事一覧

太宰くんのこと

後ろで、ヨーコちゃんの甲高い声がする。「真面目に掃除しなさいよー!」と言いながら、いつものようにバタバタと男子を追いかけているようだ。私はそんなことより、チョークのカラフルな粉が混ざり合わさる様子や窓枠にしがみ付くセミの抜け殻などに夢中だ…

どこか悪いんですか

これだけ広い敷地なのに、ベンチはどこも人、人、人で占領され、ああ、こんなところに来るんじゃなかった、と後悔し始めた午前九時。私は家から徒歩十五分の総合病院へ来ていた。新しく就職する会社へ提出するために、健康診断票を作成してもらわなければな…

slow and steady wins the race

お久しぶりです。元気にしていますか。 中学生の時には、大変お世話になりました。 私は本当に英語が嫌いで、中2になっても、3単元が全く理解できていないくらいでしたが、先生がいつも丁寧に教えてくれましたね。先生みたいに一人の生徒に対して、しっか…

SSAW

ギターかバイオリンを始めようと思った。 挫折してしまったピアノを諦め、新しい何かを始めたかったのだ。本当は何でもよかった。しかし、未だに弦から離れられない自分もいる。 迷った時は、高橋だ。彼女に相談してみると、「ギターにすればいいよ」と言っ…

空気が少しだけ透明になってきて、生きやすい季節になったのだなと私はしみじみ感じ、ペットボトルの紅茶をごくりと一口飲んだ。公園の木々はまだ少ししか色付いていないけれど、その葉はカサカサと音を立てそうな色に変化しつつある。公園には、小さな子供…

学校

昼休みが終わろうとしている物騒がしい午後の隙間、背後からもごもごと声がして、それが私を呼び止める。 「きみは、どうして昼休みに生徒会室へ来なかったんですか」 振り返ると、先生が立っていた。生徒会担当のひょろりとした男である。私はとっさに身構…

ともだち

少年はサケをかっていました。 2人はいつもなかよしです。サケくんは少年のへやにある水そうの中にいます。少年はごはんのじかんになると、サケくんにえさをあげます。サケくんはそれをとてもたのしみにしているのでした。 そして、少年とサケくんは、まい…

データ

朝ほど体調が悪い時は無く、最近は頓に体重が減少した所為か胃痛と眩暈に襲われるのを止められず、以前、一緒に朝を迎えた相手に低血圧だから朝に弱くて起きれぬのだということを伝えると、それは単に言い訳であって低血圧がそのような症状を引き起こすとは…

夜の会話

「あなたのお時間、頂戴致します」 「え」 「って思うのよ。お付き合いする人に対して」 「何それ」 「前の彼氏から別れ際に言われたの。“君と結婚するために、俺は時間と金を随分費やしたのに、全部無駄になった。俺と結婚する気がないのなら、初めから言え…

自分の境界

クライアントが自殺を図った。 事象だけ見つめれば、このことはもう四度目なので、またあのクライアントか、と同僚たちは思ったかもしれないが、私にはひとつだけ気になることがあった。それは、自殺の原因が私の言葉に起因している、ということだ。本人が病…

夏の思い出

「今日、除霊祭を行う。今から出掛ける準備して」 午前八時、叔父からの電話で起こされ、私は相槌だけで答えた。昨日、寝たのが二時過ぎだから、睡眠時間は六時間弱。まあいいか、と支度を始める。 叔父と私は仲が良い。本当の親子のようだ。そして、叔父は…

流れる

そこは地元の小さな遊園地。 遊具は数える程しかなく、敷地面積も大きいわけではない。しかし、常に、ある程度の人で埋まっている。親子連れもいれば、友達同士、勿論、恋人同士もいる。 ある高校生くらいの男女がいた。女の子はよく笑う子で、服装も露出が…

あましずく

朝日の空の向こう 温度は消えて 左の手のひらは 乾いたままで君の横顔には 触れずに 君が買ったアイスティー 木々が揺れた散歩道言葉は まだ拙くて 伝えることができなくて君が居た左を 限がなくて想うよ今 僕は纏うよ 通り過ぎていく街並みたいに 雨音の消…

アパート一周、世界一蹴

「どう? ご飯おいしい?」 『んー。まあまあ』 「田中とこうやって一緒にいるの久し振りだね。いつも他の人のところをふらふらしているの?」 『そだね』 「まあ、いいや。たまにはゆっくりしていってよ」 そういって、津口は私の頭を撫でた。津口はいつも…

1856 - 崩れ -

今日、ついにパードレが島へいらっしゃった。 数日前から、この村にパードレが来島なさるかもしれないという噂が流れて、でもそれは確証がなく、大人たちはそわそわしていた。そして、パードレをお迎えするためには、役人たちに見つからないよう準備を進めな…

プラス

ぽっかりと浮かんだ月の下、心地良い酔いと供に家路を歩む。何は無くとも頗る愉快で、あの人の声が聞きたくなった。片手に携帯電話を持ち、さて、番号を。そういえば、父が電話してくるのも、決まって酔っているときだっけ。良質な酔いは大事な人の声を恋し…

研削

夢が流れた。 母がどこにも見当たらないので、買い物にでも行ったのかと思っていたところ、父が帰ってきた。何とも妙な顔つきをしている。一体どうしたのかと思い、問うてみたら、母が倒れたのだと言う。そこで、私と弟に不安が過ぎる。立て続けに父に問い質…

外部評価

「だって、モトムラさん、友達いないでしょ?」 池田さんは小さなグラスに入ったワインを飲み干す。私のアパートという小さな空間でも、池田さんの品の良さは崩れない。まさか、彼が、私の部屋に来るとは思わなかった。 「私、ホンムラです」 「ああ、ごめん…

it's all Greek to me

理科室のドアをそうっと開けると、白衣を着た先生と、ゆらゆらした煙が見えた。 「先生、校内、禁煙ですよ」 「お。他の先生かと思って少し驚いたぞ。どうした?」 先生は慌てて煙草の火を消しているようだった。 「分からないところがあるので、質問に来ま…

ひとひら

第一校舎から渡り廊下を通って、突き当たりまで行くと、第二美術室がある。そこでは、美術部員が油絵やデッサンなどの作品を製作していて、少し異様な雰囲気がある。私は美術部員ではないが、美術室までの、このひんやりとした薄暗い廊下を歩くと、冒険心と…

Late though it is, we'll stay a little longer

起きたら、そこは火星でした。 ということは、分かりません。私にとって、一番身近な惑星が火星だったから、そう思ったのかもしれません。ただ、私は出発してから数週間後、宇宙を彷徨った挙句にそこに到着していたのでした。 今、私は四畳半くらいの広さの…

once in a blue moon

駅の改札を出たら、階段の横に井上を発見して、思わず顔が緩む。 「出迎え、どうも」 「いえいえ、どういたしまして」 駅の建物を出て、二人で、とことこと夜道を歩く。 夜の空気は、昼みたいに運動場の匂いがしない。どこかの家からはお風呂の匂いがしっと…

you'd be so nice to come home to

「水谷の好きなものって何?」 佐倉が笑顔で聞いてくるので、私は一瞬、固まってしまった。 そして、何気なくメニューに目を移して言う。 「私はハニーシフォンとブレンドティーでいいよ」 「いや、そういう意味ではなくてね。んー、まあいいか。じゃあ、私…

bystander 

訳あって、死にかけたことがあります。 気が付いたら、病院のベッドの上に拘束され、あれ、私、どうしてこんなことに……と記憶を辿りつつ点滴を受けているということは、全くなく、ああ、これはやばい……と思ったからこそ、自分でタクシーを呼び(さすがに救急…

It was wide of the mark

黒くて硬い学生鞄を開けると、そこには英語のノートも教科書もなくて、その代わりに生物の教科書とぐしゃぐしゃになったプリントが入っていた。 要するに、私の鞄ではなかった。 ネームタグのところを見ると、女の子らしい字で『柴原』と書いてあった。私は…

Not in the least!

「俺、三十歳になったら、死ぬよ」 春成は私に言った。 「どうして?」 「生まれるのは自分の意思ではなかった。だから、せめて、死ぬ時くらいは自分で終わりを決めて死のうと思う」 「そっかあ」 「三十まであと十年はあるし、自分の色々好きなことをやって…

Who is to blame for my personality?

「林田さんに負けちゃった」 「え?」 「県の弁論大会、私は出場できないの」 「あら。そうなの? 残念だったわねえ」 「…………」 夕飯の席で、私は一応、両親に伝えた。 県中学生弁論大会に学校代表として出場できるかどうか、その日に最終選考があった。しか…

Cuppa Tea?

He said, "I haven't slept well since my aunt hanged herself. And acquaintances also tried to suicide by the many ways. I have never thought about an attempt to suicide, because everyone will die someday. But there is no telling when we wil…

至道

祖母は言った。 「お前は孫の中でも一番かわいいよ。一緒に暮らしているから情が移ってしまったんだねえ」 私は何だか特別扱いされているようで嬉しかったが、その後、祖母は飼い犬のマルクスにこう言っていた。 「マルクスは雑種だけど、ずっと一緒にいるか…

リタルダンド

In case of the blatant commitments, it is difficult for not us but me to grant requests. That is why I don't bite off more than I can chew. The end comes to the start. And the start comes to the end. So I take it for granted that April bra…