2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

外部評価

「だって、モトムラさん、友達いないでしょ?」 池田さんは小さなグラスに入ったワインを飲み干す。私のアパートという小さな空間でも、池田さんの品の良さは崩れない。まさか、彼が、私の部屋に来るとは思わなかった。 「私、ホンムラです」 「ああ、ごめん…

it's all Greek to me

理科室のドアをそうっと開けると、白衣を着た先生と、ゆらゆらした煙が見えた。 「先生、校内、禁煙ですよ」 「お。他の先生かと思って少し驚いたぞ。どうした?」 先生は慌てて煙草の火を消しているようだった。 「分からないところがあるので、質問に来ま…

ひとひら

第一校舎から渡り廊下を通って、突き当たりまで行くと、第二美術室がある。そこでは、美術部員が油絵やデッサンなどの作品を製作していて、少し異様な雰囲気がある。私は美術部員ではないが、美術室までの、このひんやりとした薄暗い廊下を歩くと、冒険心と…

Late though it is, we'll stay a little longer

起きたら、そこは火星でした。 ということは、分かりません。私にとって、一番身近な惑星が火星だったから、そう思ったのかもしれません。ただ、私は出発してから数週間後、宇宙を彷徨った挙句にそこに到着していたのでした。 今、私は四畳半くらいの広さの…

once in a blue moon

駅の改札を出たら、階段の横に井上を発見して、思わず顔が緩む。 「出迎え、どうも」 「いえいえ、どういたしまして」 駅の建物を出て、二人で、とことこと夜道を歩く。 夜の空気は、昼みたいに運動場の匂いがしない。どこかの家からはお風呂の匂いがしっと…

you'd be so nice to come home to

「水谷の好きなものって何?」 佐倉が笑顔で聞いてくるので、私は一瞬、固まってしまった。 そして、何気なくメニューに目を移して言う。 「私はハニーシフォンとブレンドティーでいいよ」 「いや、そういう意味ではなくてね。んー、まあいいか。じゃあ、私…

bystander 

訳あって、死にかけたことがあります。 気が付いたら、病院のベッドの上に拘束され、あれ、私、どうしてこんなことに……と記憶を辿りつつ点滴を受けているということは、全くなく、ああ、これはやばい……と思ったからこそ、自分でタクシーを呼び(さすがに救急…