2007-01-01から1年間の記事一覧

favorite notes

口の中で冷たいピアノの音が転がった。すぐに現実を感じ取ろうと私はすうっと息を吸い込む。目の前のあなたの吐息は温かい。 音を奏でるあなたは私なんかにお構いなく、只ピアノに指を滑らせて。私はあなたに近付くけれども、あなたの視線は通り過ぎて。 私…

毎日暮らしていく中で考えていたこと

A girl was standing behind a red postbox. She made me melancholy then. So I dropped the letter into it without an addressee. If I were to tell you the whole truth, you would be mazed. A boy was walking across the blue bridge. He made me no…

自分と世界を取り戻すためにしなければならないこと

彼女がゆっくりとカップを持ち上げた。そして、静かにそのカップへと少し青ざめた唇をつける。伏せた目からは俺を受け入れているのか、拒絶しているのか分からない。 「また、やっちゃった……」 彼女の手首には痛々しく包帯が巻かれていた。 「大丈夫?」 俺…

people can use them in many places

すべり台から宙を見た。世界がゆっくりと進んでいて、シンプルに空があって土があって、地に足が付かない浮付いた状態とかそういうのではなく、確かに地球は自ら廻っていた。地球を体感するというのは、いつもとは、がらりと違った立ち位置を味わうのと同じ…

知りたいことと知らないことは目の前で融和される

放課後、帰宅しようと廊下を歩いている時、理科準備室から物音がした。きっと、誰かいるのだろうと気にも留めず、そのまま通り過ぎようとしたところをいきなり俺は理科室へ引きずり込まれる。俺の腕を掴んだのは、生物講師だった。 「ねえ、見てみて顕微鏡!…

認識ラベル

目が覚めたら、そこは教室だった。夕日が顔を照らし眩しかった。どうやら、机に伏せたまま寝ていたようで、肘やら首やらが痛い。私は椅子から立ち上がると首を回し、背伸びをして凝りを解す。 その時、後ろの方から声がした。 「三澤、プリント出来上がった…

幸福を促進できる?

多分、酒に酔っているのだと思う。体が軽くてふわふわしていて、とても幸せな心地だ。今なら、どんな頼み事をされても素直に引き受けてしまいそうなくらい、機嫌が良かった。 私はベッドの上に居て、ごろごろ寝転がり、船の上で寝ているような感覚を味わって…

音に揺らいで響いて

ドアを開けると水の滴る彼が居た。「吃驚した」 「いや、俺の家だから居るに決まっているだろう? 吃驚されても困る」 「そうじゃなくて、いきなり裸だから」 「裸じゃない。タオル巻いてる。どうぞ、いらっしゃいませ」 「うん」 私は下半身にタオルを巻い…

賞味期限はおこのみで

気付くのが遅かった。当たり前だけれども、私には見えない世界があって、私に構わず日々変化している。私だけがそれに気付かずに、ぽつんと残されていた。もっと早くに消えてしまっていれば、傷付かなくていいこともあった。そして、何も知らないままだった…

記憶の個室と昇華の問題

目の前の色は鮮やかで、掴み取れるほど意識していられるのに、少し過ぎて去ってしまうと、もうあやふやで霧に傾いている。 俺は文字をひたすら綴っていた手を休め、ふとカレンダーを見た。既に9月も終わりだった。 あっという間に暑い季節も過ぎ行き、秋が…

重大な伝え違いとその違和感

きっとどんなに善良な人であろうとも、この青い空の中の光を手に入れることは出来なくて、そして、善良な人でなければ、深い沼に飲み込まれていくのだろう。 僕たちは海風を感じながら、砂浜にぼんやりと座り込む。 「僕は君のことを好きだから、絶対にひど…

ランチタイムに合うのは孤独という虚栄心の塊ではない筈だ

「このサンドウィッチ美味しいんだけれど、食べる?」 村田さんは紙袋からそれを取り出す。私は首をか弱く横に振る。そして、無理矢理渡された缶コーヒーを一口だけ飲む。 「美味しいのになあ。おすすめなのよ」 彼女は幸せそうにサンドウィッチを頬張る。 …

学習の顛末

「生徒がね、小説を書いてきたの」 彼女は手元のコップを見つめながら言う。 「ふうん。中学生なのにやるなあ」 俺はパソコンのキーを打ちながら、のんびりと答える。 「そうじゃないのよ。書いてきたのが普通の小説じゃなくて、エロ小説なのよ」 「へえ。凄…

他人の為に自分の為に

目の前の真っ直ぐな道は、一体どこまで続いているのだろう。きれいに塗装されたアスファルト。このきれいな道を泥んこ靴でぐちゃぐちゃに汚したら、さぞかし気持ち良いだろうなあ。 カフェから見る景色には飽きたので、ふと、目の前の彼に目線を移す。彼は今…

「予習中? 少しお邪魔して良い?」 私は英文学のテキストから顔を上げ、右手にシャープペンシルを持ったまま、ぽかんと声の主を見つめる。見覚えのある顔。同じ講義を受けている人。背中がピンとしていて首から肩のラインが素敵な人。でも、今まで話したこ…

keepin’ a secret in a professor office

「死ぬことを考えれば、処分しなくてはいけないと思っているんです」 一瞬、何の話をしているのだろうと、口を噤んでしまった。先生、どういうこと? 「あと五年後にこの世から消えてしまえば、これらの本もこのまま置いておくわけにはいかないでしょう」 あ…