Soak in liquid nitrogen or go soak your head

 目の前に白い煙がもくもくと広がっている。

液体窒素。沸点−196 ℃。または77 K。絶対零度は0ケルビン。今日は特別に、いいもの見せてあげるよ」
 彼は私の目の前にある花瓶から、花弁をひとつ千切ると、液体が入っているシャーレに落とした。
「ほら」
 先生は私の手を取り、シャーレから取り出した花弁を乗せた。手のひらがピリピリするかと私は思ったけれど、実際は何も感じなかった。
「手のひらをぎゅっとしてごらん」
 私は先生の言う通りに手をぎゅうっと閉じる。中でパリパリと音がした。それから、手のひらをゆっくり広げる。
 ピンク色の欠片が、ひらひらと、2人の間に落ちていった。




 目の前に白い靄がぼんやりと広がっている。

 私の中で先生の指が激しく動くので、直ぐにでも達してしまいそうだった。 
 初めて先生を好きだと思ったあの日からこういう関係を持ち続けているけれど、何も発展しない日々。
 平熱が低い先生の体温は、こういう時もあまり上がらない。所詮、私のことはどうでもいいのかもしれない。私は先生と一緒に蕩けてみたいのに。
 でも、それが出来ないのなら、私は夢見る。液体窒素で固められた私は、先生にぎゅっと粉々に砕かれる。
 そして、私は破片だけになって、パラパラと落ちてゆくだけ。2人ではない。最初から1人だ。