関連の無い連続性

 一人ぽつんと机に向かい、座っていると、目の前に黒いハットを被ったスーツ姿の英国紳士がいた。彼はにっこりとしながら、何かを伝えてきた。ところが、私は全く英語を使いこなすことが出来ないため、彼の言っていることはさっぱり分からなかった。只、彼は窓の外を指差していた。きっと月のことを言っているのだろう。
 見上げてみれば、ここから見える月はひんやりと燃えていた。それを彼に伝えようかと思ったのだけれど、何も言葉が出てこなかった。私は代わりに手許のティーカップを覗き込む。そこには、何が映るわけでもなく、ゆらゆらと小さな世界が揺らいでいただけ。
 紳士が椅子から立ち上がり、私の前へとやって来る。私の右手を取って引っ張ろうとするので、仕方なく私は立ち上がる。
 そして、私が足を踏み出した途端、ぐにゃりと足元が撓み、安定を失くしたかと思うと、私は、のまれていった。何に? 





 私はそこまでを目の前の相手に伝えた。眼鏡をかけ、白衣を着たその人は、「あなた、眠っていたんでしょう? 夢を見ていたんですね?」と言った。
 違う。私はここ何日も眠れてなんかいやしない。そして、こんな幻想を見る。否、幻想ではない。現実だ。ぐにゃりとした地面を踏む足の感覚がやけにリアルで、その曇った不安を消し去れない。「夜は何時頃、寝ますか? 昼間も眠くなりますか?」などと相変わらずピントのずれた質問を投げかける眼鏡を尻目に、私はまた、のまれてゆく。視界が歪み、風紋があっという間に広がり…。
 今度は簡単には戻れそうに無い。