石に漱ぎ流れに枕す

「何、読んでいるんですか?」
「モホ面」
「え?」
モホロビチッチ不連続面について。地震波速度の伝わり方をちょいと。中国で地震あったからね。日本もそろそろやばくね?」
「何だ。ホモについての本かと思った。何でも略さないで下さいよ」
「うざい」
「ほら、また略して…」
「人間は言葉を創造する動物なのである。殊に、平安の頃から既に言葉は乱れていたと、かの清少納言も宣給ふておる」
「屁理屈だなあ」
「君が普段使っている言葉は私も同じく使用しているが、それは果たして同じ概念で使われているのか否か」
「どうしたんですか、急に」
「例えば、りんごを見た時、君の知覚する『赤』と私の知覚する『赤』は同じではないかもしれないが、言葉として現れるのは、同じ『赤』である」
「はい。そうしないと、人と人との会話がうまく成立しないですからね」
「言葉の定義について考え出すと、うまく言葉が出てこないような気がする。むずいな」
「考えていると言う割には、普段から略語をよく使っているような…」
「うるさい。ころすよ」
「え」
「ああ、殺害の意ではないよ。『コロコロするよ』の略だから」
「じゃあ、前者の意でお願いします」
「ごめん。先生、言い過ぎた。さて、雑談はこの辺で。それでは授業始めましょうか」