他人の為に自分の為に

 目の前の真っ直ぐな道は、一体どこまで続いているのだろう。きれいに塗装されたアスファルト。このきれいな道を泥んこ靴でぐちゃぐちゃに汚したら、さぞかし気持ち良いだろうなあ。
 カフェから見る景色には飽きたので、ふと、目の前の彼に目線を移す。彼は今、一体何を考えているのだろう。今日が初めてのデート。彼は目の前に運ばれてきたパスタを、上手にフォークを使って食べている。彼の姿勢はしゃんとしているし、彼の食べ方は何だか潔くて気持ち良い。
「来週モンゴルへ行くの?」
 彼は微笑んで答える。
「うん。二度目。一ヶ月程度かな。教育の手伝いをしに行くのだけれど、結局は地域活性化とかの名目でゴミ収集なんかもするんだろうなあ」
「楽しい?」
「まあね」
と、彼は無邪気な笑顔を見せた。
 どうして彼はそんなに素直に人の為に動けるのだろう。
 私も日本でいくつかのボランティアを経験したことがある。老人ホームや地震の被災地へ赴いて、彼らの手伝いをしたのだ。しかし、そのような活動の中でも、他人の世話を拒む人もいた。私の手際が良くなかったこともあるかもしれない。そんな時は「折角手伝ってあげているのに何だよ……」と複雑な気持ちだった。
「ねえ。そういうボランティア活動の最中に、偽善とか優越感とかそういうものを感じたことはない?」
 彼は驚いたように私を見つめ、フォークを皿の上に置いた。
「うーむ。そもそも向こうに行ったら、昼間は兎に角必死に体を動かしているし、夜は疲れて即熟睡。あまりじっくりと考えたことがなかったなあ」
 やっぱり、彼は素直で純粋な人だと思う。私は告白する
「私はね、いつの間にか自分が偽善者だと感じるようになったの。それで、何か良いことをするって時はブレーキがかかって……」
 彼は黙って聞いてくれている。
「だから人ともあまり関わりたくなくて」
「そうか……。君は偽善者かどうかよく分からないけど、少なくとも僕には優しいよ」
と、彼は微笑んだ。
「まあ、何か行動に移す時は怖いこともあるかもしれない。でも、やってみなくちゃ分からない。やってみて、『迷惑だ』と憤る人もいれば、『助かった』と喜ぶ人もいるかもしれない。しかし、やらなきゃ何もない。嬉しがってくれる人も。人間関係も。達成感も。経験も」
「うん……」
「偽善だろうと偽善じゃなかろうと、何か自分が行動すればプラスに捉えてくれる人は決してゼロではない。じゃあ、やらないよりやったほうがマシなんじゃない?」
 彼はやっぱり真っ直ぐな人だ。素直で純粋で、自分が決めた道をしっかりと進んでいる。でも、私はそんな彼の真っ直ぐな道を汚していく。私の汚れた靴で。仕様がない。だって、私は今更真っ直ぐにはなれないんだもの。
 突然、彼が怪訝そうな顔で言う。
「まさか、こうやって一緒に食事しているのは慈善事業ではないよね?」