ランチタイムに合うのは孤独という虚栄心の塊ではない筈だ

「このサンドウィッチ美味しいんだけれど、食べる?」
 村田さんは紙袋からそれを取り出す。私は首をか弱く横に振る。そして、無理矢理渡された缶コーヒーを一口だけ飲む。
「美味しいのになあ。おすすめなのよ」
 彼女は幸せそうにサンドウィッチを頬張る。
 昼休み、殆どの社員は近くのカフェか社員食堂に食べに行く。私は大抵この公園で一人で時間を過ごす。というのも、私は食べることに興味がないからだ。ある空間に食べ物のこもった匂いや人々が食べ物を口にいっぱい詰め、咀嚼する様子などを目にすると、具合が悪くなる。私はそういう気分になりたくないし、他人をそういう気分にさせたくない。だから、一人でこの公園にいたい。一人でぼんやりと誰にも邪魔されず、自分だけの空間を守りたかった。しかし、最近、一人ぼっちの私を心配した村田さんが、昼休みになると私の後に付いて来るようになった。私はそんな彼女をどう拒絶していいのかも分からず、そのままの状態が続いている。
「あんまり食べてないみたいだけど、具合が悪いの?」
 村田さんは指に付いたマヨネーズを舐めながら言う。私は思わず下を向き、首を横に振る。
「最近、また痩せたみたいだけど大丈夫? 今度、美味しいお店にでも二人で食べに行こうか?」
 私が返事に困ってどうしようかと村田さんの顔を見上げると、彼女の唇が油でテラテラと光っていた。私の中に嫌悪感が湧き上がる。人がものを食べる姿は醜い。それに気付かない人はもっと醜い。
 ガサッと音がした。彼女がもう一つのサンドウィッチの袋を開けていた。パン生地からハムとトマトが大きくはみ出している。
 私は思わずそれを横から奪い取り、思い切り地面へ叩きつけた。そして更に、自分の缶コーヒーを軽く空中へ放り投げ、彼女に言う。

「このサンドウィッチ美味しいんだけれど、食べる?」