重大な伝え違いとその違和感

 きっとどんなに善良な人であろうとも、この青い空の中の光を手に入れることは出来なくて、そして、善良な人でなければ、深い沼に飲み込まれていくのだろう。

 僕たちは海風を感じながら、砂浜にぼんやりと座り込む。
「僕は君のことを好きだから、絶対にひどいことはしない。君を傷付けたりはしない」
真っ直ぐに彼女を見つめても、彼女は頷くだけで、僕に目を合わせようとしない。
「ずっと怖いの。もう大丈夫だって場所を見つけても、必ず追いつかれるの」
彼女はその肩や腕に付けられた痣を少し気にしながら話す。
 彼女の体に、例の男は次々に傷を残す。彼女の体を無造作に触る。僕はどんなに気を遣っても、彼女の体には触れない。怖くて。
「僕のことを信じて。何でもしてあげる。力になる」
「……もういいの」
 彼女は僕のことを嫌っているわけでも好いているわけでもなく、只、彼女はきっと話を聞いてくれる誰かを探していたのだ。誰でも良かったのだ。
 それなのに、僕は勘違いして、こうやって無理に彼女に話しかけるだけで、何の解決にもなっていないのだ。僕のことを信じてほしいだけなのに。それすらも今は叶わなくて。
「私はもう逃げて、逃げて、ずっと逃げ切りたい。だから……」
そう言うと、彼女は波際に歩き出す。そして、ゆっくりと振り返り、言う。
「あなたは優しかったよ」
僕はそれでも、黙って見守るしかない。ずっと、ずっと彼女を遠くから見ているだけで、彼女はもう波の間に見えなくなってしまっていた。

 彼女は目の前で絶えてしまう。
 結局、彼女は最後まで僕のことを信じてくれないままだった。傷付けないようにと、壊してしまっただけだった。