認識ラベル

 目が覚めたら、そこは教室だった。夕日が顔を照らし眩しかった。どうやら、机に伏せたまま寝ていたようで、肘やら首やらが痛い。私は椅子から立ち上がると首を回し、背伸びをして凝りを解す。
 その時、後ろの方から声がした。
「三澤、プリント出来上がったか? だんだん外が暗くなってくるぞ。もう帰らないと」
「え……?」
 私は先生と机の上のプリントを交互に見つめる。ああ、そうか数学の宿題をしてなくて、残されてたんだった。
「もう出来上がったので帰ります」
「じゃあ、ちょっとチェックするから待って」
 先生はそう言うと、プリントを手に取り、数式やら解答やらを見ている。私はそんな先生の横顔を見つめる。眼鏡を掛けている横顔の線がすっきりしているなあとのんびり感じた。鼻筋から唇にかけてのラインが綺麗だ。
 そんな私に先生は気付いたのか、こちらへ目線を移す。先生の表情がきゅっと引き締まったかと思うと、私の頬を優しく撫で、私の首へと手を滑らす。私はどうしてよいのか分からず目を瞑る。




 目を開けたら、そこは公園のベンチだった。手にコーヒーの缶を持ったまま。私は首を傾げる。はて、何をしていたんだっけ。
「三澤、ごめん。買い直してきた。コーヒーは飲めないんだったら、はい、ミルクティー
 先生は私の手の中のコーヒーとミルクティーをそっと入れ替える。
「……ありがとうございます」
 え? このシチュエーションは先生とデートということなのだろうか。確かに私は先生に対して好意は持っているけれども、先生は?
 とりあえず、ミルクティーでも飲もうかとプルタブを開けようとするが、指がもたついて上手く開けることが出来ない。
「かわいいなあ。開けてあげるよ」
 先生は空けてくれて、私はごくんと一口飲み込む。温かいミルクティーが体に染み渡る。私はこの幸福感にとろんとなり目を瞑る。そして、先生の肩に頭を預けた。




 目を開けたら、ベッドの中にいた。シーツの肌触りが心地いいなあともぞもぞ動いていたら、何も着ていなかった。そして、私の横には先生が。
「よく寝たね。お互いに」
「え……?」
「どうだった? 気持ち良かった?」
 私は何がどうなってるのか分からなかった。だけども、おそらく先生とはもう体の関係も持ってしまっているだろうことは何となく分かった。
 先生は私の体を触り始める。先生の指の動きがいやらしく、私は感じてしまい、つい声が出てしまう。
 十分に前戯をした後に、彼のものが入ってくる。入れるのに少し痛かったけど、内臓までが揺さぶられるように快感が押し寄せてくる。すぐにも絶頂を迎えそうになり、私は声をあげてしまう。先生の手は私の口を塞ぐ。




 目が覚めたら、またベッドの中にいた。先生の体温を探す。しかし、今度は無機質なベッドの匂いがした。よく見ると、壁も天井も真っ白だった。何だかよく分からなくて、とりあえず私は体を起こそうとした。しかし、体が思うように動かせない。これが夢なのか現実なのか判断できなくて、私はゆっくりと呼吸をしてみる。とりあえずは生きている。そして、感覚を澄ませてみる。腕の方に痛みを感じた。腕から管が伸び、点滴をしているようだった。
 ああ、そうか病院か。
 私はゆっくり呼吸しながら3秒数える。
 そうだ。私は先生に何度も殺されかけていたのだった。そして、眠る度にその出来事ばかりを夢に見る。それを繰り返し。しかし、都合の悪いところはあまり記憶に無い。
 先生は今、どこにいるのかは私には分からない。何故、私のことを何回も殺そうとしていたのかも分からない。私のことが嫌いだったのかもしれないし、誰かを殺してみたかったのかもしれない。だけど、私はまだ生きている。

 そして、私はあなたの夢をまた繰り返し。