知りたいことと知らないことは目の前で融和される

 放課後、帰宅しようと廊下を歩いている時、理科準備室から物音がした。きっと、誰かいるのだろうと気にも留めず、そのまま通り過ぎようとしたところをいきなり俺は理科室へ引きずり込まれる。俺の腕を掴んだのは、生物講師だった。
「ねえ、見てみて顕微鏡! ウニの人工受精だよ」
 彼女は無邪気な笑顔で言う。放課後にこんなところにいるとは暇人なのだろうか。
「いきなり何だよ。それに、俺、ウニの受精とか興味無いし」
 準備室は少し黴臭い匂いがした。俺は白衣姿の彼女を眺める。彼女には少し大きめのサイズみたいで、腕のところを捲くっていた。こんな薄暗い部屋は彼女とは不釣合いに思えた。
「自分が興味あるものをあっさり興味無いとか言われると、何ともつまらないなあ」
「そう言われても……」
 俺は言葉に詰まる。
「私は神村にも興味あるんだけど。神村は私に興味ある?」
 彼女は椅子に座り、俺を見上げる。顎の辺りまでの髪が揺れて、首の白さと対照的に見えた。
「ねえ神村、制服脱いでよ。神村の裸が見たい」
「は?」
 彼女はにこやかに見上げている。俺はどうしていいのやら分からず、その場に立ち尽くしていた。俺の体温が少し上がる。
「神村は線が細いのに、意外と筋肉とか付いてそうじゃない? だから興味ある」
「教師なのにそんなこと言っていいの?」
「大丈夫。誰も入ってこないように鍵閉めとくから」
 彼女はそう言って、ドアのところまで行き、鍵をかちゃりと閉めた。
「さあ、どうぞ」
 俺は思考がフリーズしてしまって、呆然としていた。
「仕方ないなあ」
 そう言うと、彼女は俺の制服を脱がせ始めた。俺は黙って、その様子を観察していた。彼女の爪には薄い桃色のマニキュアが塗ってあった。思わず口に入れたい衝動に駆られる。
 そして、いつの間にか上半身が裸にされていた。
「やっぱり綺麗な体してるね」
 彼女はそう言って、そっと冷たい指で体の線をなぞり始める。そして、俺を真下から見上げ、胸の辺りに舌を這わせた。
「神村の味がする」
 俺は思わず彼女を抱きしめた。他の女子とは違って女の匂いがした。
 俺は彼女を押し倒す。「好きだ」とか「愛している」という気持ちからではない。よく分からないが、本能的に体が彼女を欲していた。無我夢中で彼女の白衣を脱がせる。
 彼女とひとつに繋がった時、どんな感じなのだろうか。