ある筈の底が見えない

 彼に寄りかかると、ふんわりと温かい匂いがした。
「長迫は優しいね」
「ん? 何が?」
「私が頭痛いって言っただけで、薬を買って持ってきてくれた」
「困っている人がいたら助けるのは当たり前でしょ」
「ふうん」
 こうやって久し振りに長迫といるとドキドキするなあとぼんやりしていたら、彼が手を繋いできた。本当に私の恋人になってくれるといいのになと思うと、悲しくなった。
「今も他の女の子とセックスしたりしてるの?」
 彼は私をじっと見つめる。
「何でそんなこと聞くの?」
「嫌だから。他の子と長迫が寝るのが」
「そんな悲しい顔しないでよ」
 否定も肯定もしない。長迫は私の頭をそっと撫でる。あんまり優しく触るので、本当に悲しくなってきた。
「僕は君のことが一番大事だよ」
 それは分かっている。でも、そうは言っても、女の子と会話するような気軽さで、彼は寝るのだ。そして、それが悪いことだとは思っていない。
「大事って言っても……」
 私の頭を撫でていた手のひらは、いつの間にか頭から首へ、首から胸へと移動してきた。長迫の綺麗な指が私に触れる度、私は自分の中心がとても熱くなるのを感じた。そして、彼に優しく押し倒される。
「ねえ、どこにも行かないでよ」
 私は長迫の体に夢中になる。けれども、彼は余裕で私に触れる。決して乱れない。
「私だけの長迫でいてよ」
 何も返事はなかった。
 私は静かに泣いた。けれども、体だけは忠実に、長迫に反応し続けていた。