崎村或いは匿名に関する何か

「次の短編はもう書けた?」
「いや、まだアウトラインさえ見えぬ」
「もうヒエログリフについてでいいじゃん。若しくは」
「そういえば、先日、サイトの文章を読まれた方が『セックスに関する文章が多いなあ』と仰ってましたよ」
「まあ、それは『セックス担当』の俺が書く回数が多いからだ」
「君は『ロマンス担当』だけど、全然書いてないじゃん」
「だって、忙しいんだもん」
「それにしても、まさか『崎村』が創作グループだと気付いている人はいないだろうなあ」
もののあはれ
「いや、そんなに紫式部のような偉大な感じではないから! そして、書いてる文章量も比べものにならないから!」
「そもそも、紫式部複数説も危ういですよ」
「ていうか、台詞の前に名前を書いて置かないと、『崎村』が一体何人なのか、誰が何を喋っているのか、読者も分かるまい」
「それでいいんじゃないの?」
「だいたい、何で『崎村』なんだよ。もっとカッコいい名前があっただろうに」
「私の好きな人の名前だったんだけど。中学時代の……。だって皆、開始当初に何も反対しなかったじゃない!」
「……」
「……」
「あっ、そういや、明日は」
「うん」
「というわけで、『ラジオ担当』よろしく!」




 みたいなことを授業中にぼんやり考えていたら、急に先生に指名されて、グレゴールだとかメンデルとか遺伝的アルゴリズムだとかデオキシリボースだとかが、真っ直ぐに私に押し寄せて、世界が一周くるりと回った。
 そうだ! 生物って複雑だけど、案外ちっぽけだ! と、先生には答えておいたが、彼の表情からは何も読み取れなかった。