着信音

 ベッドの中に潜り込んで、なかなか落ちていかない意識を持て余していると、携帯の着信音が鳴った。またいつものメールか。画面を開くと、予想通り、彼女だ。
『やり直してもらえないの?』
 僕はうんざりして携帯を閉じる。しかし、続け様にまたメールが。
『あなたのことが忘れられないの』
 目を閉じる。僕は忘れたい。
『眩暈が酷くて通院しています。医者には精神的なものが原因だと言われました』
『毎日、辛くてたまりません』
『時々、死にたくなります』
『先日、友達のお葬式に行ってきました。事故死だったので、可哀想な気もしましたが、少し羨ましくも感じました。私は生きるのが辛い』
 毎日のように、こんなメールを寝る直前に送られては、僕も気がおかしくなりそうだ。現に不眠症であるのか、最近まともに眠れない。たとえ少し眠れたとしても、魘されることが多い。
 それでも、彼女へ返信はしない。もう僕達の関係は終わったのだ。

『死のうと思っています。生きていても仕様がない』
『きっとあなたは止めてくれないでしょうね』
『本当に死ぬから』

 僕はベッドから起き上がる。
 別に彼女が死のうと僕には関係ない。仮に本当に死んだとしても何とも思わないだろう。
 だけど、それなら、どうして眠れないんだ。ゆっくり眠りたいのに……。
 更に鳴り続ける携帯を置いて、寝室を出た。
 数歩歩いたところではっとする。その時、鏡に映ったのは何だ。
 そこに映ったのはもう僕ではなかった。