Not in the least!

「俺、三十歳になったら、死ぬよ」
 春成は私に言った。
「どうして?」
「生まれるのは自分の意思ではなかった。だから、せめて、死ぬ時くらいは自分で終わりを決めて死のうと思う」
「そっかあ」
「三十まであと十年はあるし、自分の色々好きなことをやっておきたいと思う。十年あれば十分だと思う」
「ふむ」
「北見はどう思う?」
「んー、私は別に人間みんないつかは死ぬんだし、別に自ら命を絶たなくてもいいんじゃないかなあと思う。私自身、病気がちでいつも死にかけてるから、いつ死んでもおかしくない状況」
「なるほど」
「春成は自殺の方法とかもう決めた?」
「まだだけど」
「じゃあ、春成が三十歳になったら、私にその命ちょうだい」
「え」
「どうせ死ぬんなら、人に役立つ死に方しよう」
「例えば?」
「死ぬ間際にカンボジア行ってきて」
「え。なんで?」
「地雷撤去」
「ジライテッキョ?」
カンボジアとかベトナムとか世界にはまだ一億以上の地雷が埋まっているでしょ。それを撤去するには莫大な費用と人数と時間がかかるよね。で、日本には毎年数万人の自殺者が出るわけでしょ。その人たちはおそらく、色んな手法で自殺を実行したのだと思うのだけれど、どうせ死ぬのなら、その命を誰かの為に役立てて欲しい」
「つまり、地雷の犠牲になれと?」
「まあ、そこまでは言わないけれど」
「今、自殺者の残された家族や友人を敵に回したね」
「私自身が残された人だけど」
「あ、そう」
「まあ、人の感情って合理的にいかないものだから、難しいよね」
「ふむ」
「それに、繋がったままする話ではないよね」
「うむ」
 私は春成の体にぴたっとくっついた。どくどくどくという音が聞こえた。私の鼓動か春成の鼓動か分からないくらいしっかりしていた。
 死なせるのにはもったいないなあと思った。だからといって、私が生きることを渇望しているというわけではないのだけれど。
 春成が私の首にそうっと手を当てる。
「細いなあ。すぐに折れそうだ」
「うん」
 そのまま春成が私の首に両手を回して、この気持ち良さの中、殺してくれてもいいのにと思った。
 いや、それでは全く合理的な死ではない。矛盾矛盾。