短編
「おじいちゃん、夕ご飯の時間だよ」 ベッドに眠るおじいちゃんを覗き込むと、薄い瞼がぴくぴくと動き、うっすらと目が開いた。 「ん? 緋那子かい? お母さんは?」 「お母さんは仕事だから、今日も私が代わりに来たよ」 私は箸、スプーン、らくのみを準備…
多分、酒に酔っているのだと思う。体が軽くてふわふわしていて、とても幸せな心地だ。今なら、どんな頼み事をされても素直に引き受けてしまいそうなくらい、機嫌が良かった。 私はベッドの上に居て、ごろごろ寝転がり、船の上で寝ているような感覚を味わって…
気付くのが遅かった。当たり前だけれども、私には見えない世界があって、私に構わず日々変化している。私だけがそれに気付かずに、ぽつんと残されていた。もっと早くに消えてしまっていれば、傷付かなくていいこともあった。そして、何も知らないままだった…
「死にたい…」 夜道を二人で歩いていると、ヤツは俺にそう言った。 その時、地面にのびているヤツの影が、薄く消えかかっているように感じられたのは気のせいだろうか。「おいおい、冗談だろ。本当は、死のうなんてこれっぽっちも思ってないだろ。その証拠に…